Matterhorn 4478m。真ん中の稜線がヘルンリ稜。この写真では分かりにくいが真ん中辺りにヘルンリ小屋も見える。
2006年の夏のヨーロッパは不安定な気候だった。７月は猛暑でアルプスの天気は良く、多くのクライマーは登頂することができて満足して帰ったようだ。８月になると一転して天気が悪くなり、気温も下がった。ふもとは雨模様、山は雪、しかも大雪である。そんな時にスイスに向かった。
8月4日、憧れのツェルマットに着いてもマッターホルンは見えなかった。やっと雲が切れて少し見えたが雪で真っ白。ツェルマットは国際観光都市。きれいな建物が立ち並び、外人のハイカー、クライマー、観光客がウジャウジャいる。ここから登山電車やロープウェエイがあっちこっちに出ている。ネパールがこんな風になるのはいつのことであろうか？いや、多分ならないだろうし、なって欲しくはないとも思う。便利だが、スイスの物価の高いのには参った。ネパールの感覚がまだ残っているだけに余計に高いと感じる。
８月５日、ガイド組合のあるアルピンセンター（Alpin
Center)へ行った。6日のガイドによるテスト山行のブライトホルンのハーフトラバースは、雪で岩が隠れ岩登りができず中止となった。代替としてポリュックス４０９２m登山になった。ロープウェイ駅の終点のクライン・マッターホルンから氷河上をトラバースして行く、岩稜の山である。（難易度：PD。�兇硫媾蠅△蝓∨悗畢機∪磽苅�°まで）。メンバーは日本人ばかりの3人であった。クレバスに注意しながら氷河を歩くと、ポリュックスとカストールの双児峰がある。ポリュックスは岩稜帯をしばらく登り、やや急な雪稜を登ると頂上に着く。頂上付近は強風と霧で何も見えなかった。クライン・マッターホルンに戻るとテスト合格で、マッターホルン登山のための1年間有効のガイドのサイン入りの証明書をくれた。
ガイドは中年の小柄な女性であった。しかし、さすがアルプスのガイド、体力も技術もしっかりしている。アルプスのガイドは殆ど休憩をとらないと聞いていたが、全くその通り。水を飲むための休憩が1回だけと、アイゼン装着時と頂上で写真を撮ってくれた時に止まっただけである。歩くスピードは速いし、５〜6時間程度なら何も食べない。スピードのためには荷物は必要最小限に減らす。安全のために何か持つのではなく、安全のために極力持たない。ヒマラヤの経験でも、ユックリと歩くのは日本人だけかもしれない（但し、日本人でもちゃんとした山岳会の人は西洋人並みに歩く）。時間が安全を左右するため、標準時間内に行けないようならそこで打ち切り、引き返す。同行のメンバーの女性は体力的に問題があり遅れだした。ガイドは早く登るよう２回くらい警告していたが、ついにストップさせ、彼女は寒い稜線で我々が頂上から戻るまで待機させられた。戻りの時は、ガイドはズーッと、”Come
on” とか”Go, go"と叫んでいた。早いペースで歩き続けたせいか、最後のクライン・マッターホルン駅への登りは流石に疲れた。
マッターホルンの許可証をもらったものの、大雪の後では快晴が２〜３日以上続いて雪が解けないとマッターホルンのガイド登山許可はでない。時間待ちの間にモンテ・ローザのデュフ−ルシュピッツェ
４６３４m登山をアルピン・センターで申込んだ。標高差が２１３０mもある体力のいる山である。センターのオバちゃんによると、モンテローザ小屋まで１人で来て欲しい、ガイドがそこで待っているとのことであった。ゴルナーグラート鉄道の終点からツェルマットまで歩いており、地理的には大体分かっているから何とかなるかと思っていた。翌日、ローテンボーテンの駅からリッフェルホルンの北側を、ゴルナー氷河に降りかけた。途中までは踏み後やケルンがあったが、突然分からなくなり、氷河への崖となった。辺りを下ったり登り返したり、上流に行ったり戻ったりして、探しまくったがわからない。ついにギブアップしてツェルマットに戻った。アルピンセンターで解約しようとすると、電話でモンテローザで待機しているガイドと連絡をとり、ヘリコプターでモンテローザ小屋まできたらどうかとのことである。ヘリ代がいくらか忘れたが、金の心配と既に戦意喪失していた私はガイドへの違約金２００フランを払い解約した。
このホームページを書くために、ガイドブック（アルプス4000m峰登山ガイド）を読み直したり、他のホームページを読んだ。東方向に緩やかに下る道をゴルナー氷河へ、とある。その時はそんな道は見つからなかったぞ！氷河への崩れそうな崖を途中まで無理して真っ直ぐ下ったのだ。クライマーでない人でも小屋まで行く道が崖であるはずは無かった。
毎日、アルピンセンターに通い、マッターホルンに登れないか確認したが、雪が解けずにダメだった。モンテローザも失敗し、ポリュックス以外にも何か登っておかないと格好がつかない。そこでブライトホルン４１６４ｍに単独で登った。クラインマッターホルンのロープウェイ駅から４００ｍの登り。難易度ＰＤ−。天気が良ければ楽な4000m峰の典型。ガイドブックにある通り登山者の列が続いている。普通の日本人はザイルを使うと、特殊で高度（？）な山登りと思う傾向があるが、ここでは当たり前のようにガイドのザイルの列に繋がっている。日本人もこのようにして雪山を楽しんで欲しいものだ。北のモンテローザ方面など、頂上の景色は素晴らしい。真横から見るマッターホルンは余り高く見えず、ヘルンリ稜の傾斜も意外と緩そうだ。いや負け惜しみ。
ツェルマットで粘ればマッターホルンに登れる可能性が無きにしもあらずであったが、確実性は無い。次のアイガー東山稜に賭けようとマッターホルンを諦め、8月11日に予定通りグリンデルワルトに向かった。
