アイランド・ピーク、チュクンリ(2008年11月)

 Island Peak (Imja Tse) and Chhukhung Ri (Nov., 2008)

 

                   アイランドピーク(イムジャ・ツェ)の頂上直下

  2008年はあるヒマラヤの未踏峰の計画をしていた。ところが仲間のアクシデントにより中止せざるを得なくなった。毎年行っていたネパールに行かないのもけったくそ悪い。次善の策としていくつかの山を考えたが少人数では費用の負担が大きすぎる。NMAピークの講演をした手前、最も登られているアイランドピーク(6183m)くらい登っておかないと格好がつかないと、徹底的なローコストを図りながら1人で行くことにした。
   せっかくネパールへ行くのだから、ついでに他のNMAピークも考えたが、登山許可料がかかる。無断で登るとエージェントに迷惑がかかるし、ガイドと同行ではエージェントも許してくれない。そこでNMAピークではあるが、殆どの人が公然と無許可で登るチュクンリ(5550m)と、トレッキングだけで登れるランタンのツェルゴリ(4984m)、及びゴサインクンドのスリヤピーク(5145m)を目指すことにした。後半のランタンエリアは旧知のポカラのガイドと一緒で、彼はこのエリアは初めてであり、勉強のため割安料金である。
   結果は、最初の3つのピークは登ったが、最後のスリヤピークは疲れきってしまい断念した。体力が衰えてきたせいか、相変わらずの早いペースに年とともに高所順応がうまくいかなくなってきたのか、いつになく疲れを感じた。

  アイランド・ピーク(Island Peak)、ネパール語名はイムジャ・ツェ(Imja Tse)。 観光省やNMAのリストによる標高は6183m、市販の地図では6189mとなっている。アイランド・ピークは、非常にポピュラーになったエベレストやチョーオユー登山へのトレーニングの山として多くの登山者を集め、NMAピークの中ではダントツに登山者が多い。
   アイランド・ピークの一般ルートのグレードはPD。 北稜ルートはPD+となる。
   チュクンリやランタンエリアのツェルゴリはトレッキングの山だがカラパタールやゴーキョ・ピークに負けないほど展望がよい。もっと日本人が訪れて欲しい山だ。

 

アイランド・ピーク、チュクンリ

   

チュクンからのアイランドピーク

 2008年11月から12月にかけて35日間、1人でネパールのNMAピークのライト・エクスペディションとランタン、ゴサインクンドエリアのトレッキングをしてきた記録です。

1.全体期間:11月5日〜12月9日 35日間

2.前半:アイランドピーク 6183m、チュクンリ5550m登山

(1)期間:11月8日〜11月19日 12日間 (カトマンズ起点)
(2)編成:ガイド 1人、ポーター2人
(3)日程

  11月8日  カトマンズ - ルクラ- ナムチェバザール
  11月9日  ナムチェ - パンボチェ
  11月10日 パンボチェ−ディンボチェ
  11月11日 ディンボチェ - チュクン
  11月12日 チュクンリ順応登山5550m
  11月13日 チュクン- アイランドピークBC(約4950m)−アイランドピークHC(約5400m)
  11月14日 アイランドピークHC−アイランドピーク6183m−アイランドピークHC経由BCへ
  11月15日 BCにて休憩、イムジャ・ツォ(氷河湖)散策
  11月16日 BC−チュクン- ディンボチェ
  11月17日 ディンボチェ-ポルツェ- ナムチェ
  11月18日 ナムチェ - ルクラ
  11月19日 ルクラ- カトマンズ

(4)
アイランド・ピーク(イムジャ・ツェ)登山
  チュクンから山の展望を楽しみながら3時間ほど登ると、アイランドピークBCがある。BCは地球温暖化により氷河湖が拡大し、決壊の恐れがあると指摘されているイムジャ・ツォからサイドモレーンを隔てた場所にある。標高は5000m弱。BCには予想通り沢山のテントがあった。大手のエージェントはテントを張って場所をおさえているらしい。
  BCから少し行くとアイランド・ピークの登りとなる。チュクンから来ると疲れた体には傾斜がきつい。我々はハイキャンプ(約5400m)にテントを張った。ハイキャンプのテントは3〜4隊のみであった。
  ハイキャンプは風に舞う粒子の大きな砂ぼこりがひどい。テントの入口を空けておくとテント内がすぐに砂だらけになる。BCからイムジャ湖上流方面の砂は粒子が細かく、風に舞い空がかすむほどである。BCはイムジャ湖のサイド・モレーンにガードされているため砂ぼこりはやや少ない。
  ハイキャンプの水場は遠く、1時間くらいかかる。一方、BCの水場は上部の氷河の近くにあり10〜20分くらい。

  ハイキャンプを午前3時に出発した。BCから直接登る多くの登山者は朝1時か2時頃に出発している。ハイキャンプからは月明かりの中をひたすら登る。やがて薄明るくなり、ややフラットな雪稜となった。標高は確認していないが5700mくらいか。ここでトレッキングシューズから登山靴にはき換え、アイゼンを装着。ロングスパッツのバックルがなかなか締められずに苦労した。
  以後は余り傾斜のきつくない雪上、氷河の登るとなる。所々クレバスが口をあけている。傾斜がきつくなると雪壁となる。
  アイランドピークの主稜線に出る雪壁は60〜70度前後、高度差が約200mあるがフィックスロープが複数列あった。頂上直下の稜線はやや高度感があり緊張するが比較的容易に登れる。
  沢山の欧米の登山者がいたが、日本人は私1人だけであった。
  ハイキャンプに下山後、テントをたたみ、BCに移動した。翌日はローツェ南壁のBC方面に行こうと思ったが、疲れもありイムジャ・ツォ巡りだけでやめ、休養。

  アイランド・ピークはNMAピーク(いわゆるトレッキング・ピーク)の中では最も人気があり、ダントツに登山者の多いピークである。チョーオユーやエベレストへのトレーニングとして登る人も多い。外国人の中には雪山もろくに登ったことのない人も来るようだ。チュクンのロッジにはレンタルの靴やアイゼン、ピッケル、安全ベルトなどが置いてある。ガイドのパサンはプラスチック二重靴とアイゼンをリースした。ガイドに装備料は払っているが、それは生活費に消えるであろうパサンは高価な装備は持たず、レンタルでしのいでいるかもしれない。因みに二つの装備のレンタル料は、一日当たり400ルピーとのことである。

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イムジャ・ツォ
  イムジャ・ツォは氷河湖決壊洪水の恐れがあるということで、朝日新聞やNHKで大々的に報道された。また以前から日本の氷河調査隊を案内しているエージェントやガイドから話を聞いていたため興味を持っていた。イムジャ湖の下流にも2ヶ所ほど昔は氷河湖だったと思われる場所があり、氷河湖が決壊しながら上部に移動していった様子がうかがえる。
  氷河湖を支えている堰堤の部分はまだかなり堅固そうで、水面との高度差もあり、素人目にはすぐには決壊しそうにはないように見える。ただし、堰堤の堆積土砂の下にはまだ氷河があり、これが解けたら危なさそうだ。また、氷河湖の周囲は常に土砂崩れを起こしており、大きく崩れたら水面が一気に上昇するかもしれない。

(6)
チュクンリ
  標高5550mのチュクンリはどういう訳かNMAピーク33座の一つである。登山は正式にはNMAに申請し、登山許可料を払わないといけない。しかし、標高はカラパタールと大差なく、氷河もないし、テントも不要でチュクンのロッジから往復4〜5時間で容易に登ることができるため、NMAには残念だが許可を取って登る人は少ない。アイランドピークへの高所順応で登る人も多い。
 一方、展望は素晴らしい。エベレストが見えないことを除けば、カラパタールやゴーキョ・ピークに勝るとも劣らない。ローツェの岩壁が眼前にせまり、アマダブラムやオンビガイチャンも間近である。日本人トレッカーはカラパタールやゴーキョ・ピークなどを目指す人が多いが、欧米人はチュクンリにも沢山来るし、三つをまとめて登ったり、その間を東西に結ぶチョラ・パス越えやコンマ・ラ越えもしている。ヒマラヤのトレッキングに関しては、日本人は欧米人に比べて非常に保守的で、訪れるエリアも限られている。ガイドブックなどの情報が少ないのが一因であるし、集客可能なポピュラーな場所しか行かないエージェントに連れて行かれるだけの日本人が歯がゆい。

ツェルゴリ、ゴサインクンド

 

ツェルゴリ4984m トレッキングの延長の山だが、カラパタールよりはかなりきつい

1.全体期間:11月5日〜12月9日

2.前半:アイランドピーク 6183m、チュクンリ5550m登山
     11月8日〜11月19日 12日間  

3.後半:ランタン、ゴサインクンド

(1)期間:11月25日〜12月5日 11日間 (カトマンズ起点)
(2)ガイド:ポカラの旧知の個人ガイド
     ポカラのガイドのためランタンは初めて。
(3)概要
   11月25日 カトマンズ- シャブルベシ(ジープ 7.5Hr、12,000ルピー)
   11月26日 シャブルベシ - ラマホテル
   11月27日 ラマホテル−ランタン
   11月28日 ランタン - キャンジンゴンパ
   11月29日 キャンジンゴンパ - ツェルゴリ登山4984m - キャンジンゴンパ
   11月30日 キャンジンゴンパ - バンブー
   12月1日  バンブー−トゥロシャブル−シンゴンパ
   12月2日  シンゴンパ - ゴサインクンド
   12月3日  ビューポイント、ゴサインクンド周辺散策
   12月4日  ゴサインクンド - ドゥンチェ
   12月5日  ドゥンチェ - カトマンズ(バス 8.5Hr,240ルピー)
   
(4)
ツェルゴリ
  ツェルゴリ4984mはヤラ・ピークや他の山への高所順応によい山で、展望も良い。日本には石原さんのガイドブックくらいにしか紹介されていないが、外国人はよく登っており、ルートも分かりやすい。
 登りはキャンジンゴンパ東方の台地から川を渡り、キャンジンゴンパからよく見える南方稜線を登り、カルカから回り込み、頂上からの西稜線に出ると頂上は近い。頂上にはタルチョーやルンタがいっぱい。
  頂上からの山々の展望も素晴らしい。このエリアではランタンリルン7225mが盟主だが、ガンチェンポ6387mもヒマラヤヒダがきれいで面白そうである。
  帰りにヤラ・ピークのBCに行こうと思ったが、登りでかなり疲れ断念した。元の道を帰るのもつまらないため、ヤラ・カルカ方面から南廻りで下山した。キャンジン・ゴンパからの往復で約7時間。ンタン・コーラ沿いの下山は大正解で、雄大な眺めであった。
  このエリアでは、日本人の多くはキャンジンリに登っているようだ。ツェルゴリは日本のガイドブックには余り紹介されていないため、日本人は少ない。しかし外国人は多く登っている。標高の割にはキャンジン・ゴンパから標高差が1300m弱あるため、時間がかかりきついが、キャンジン・ゴンパを訪れるのならぜひ登って欲しい山である。
 イギリス人の登山家であり探検家のティルマンがランタン谷を「世界で最も美しい谷のひとつ」と紹介したことがガイドブックや色々の本に紹介されている。日本人は特にランタン谷を意識し過ぎているようにも思える。面白いことに、「美しい谷のひとつ」からいつの間にか「ひとつ」が抜け落ち、「最も美しい谷」と断定的に書いている人が多い。The bestかどうかは疑わしい。しかし、この下山ルートから見下ろすランタン谷や周囲の山々は素晴らしかった。

(5)
ゴサインクンド
  ランタン谷のバンブーからトゥロシャブル経由でシン・ゴンパに入った。起伏の激しい道である。シン・ゴンパで泊まったレッド・パンダというロッジが良かった。シン・ゴンパのロッジはどれも規模が大きくしっかりした作りである。なお、帰りにチーズ工場でヤク・チーズを買って帰った。これはうまい。
  ゴサインクンドの目的の一つはスリヤ・ピーク5145mに登ることであった。しかし、一連の強行日程の疲れで気力も失せ、往復8時間以上かかりそうな山の割にはやや魅力に欠けた山容で、登ることをやめた。その代わりでもないが、ビューポイントに登り、ゴサインクンド一周をした。フラフラと歩いたが、きれいな写真がとれた。
  シン・ゴンパに再び泊まると、ドイツ人二人組みとフランス人二人組みとまた一緒になった。段々と仲良くなるのが面白い。
 ドゥンチェのロッジでは教育支援をしているJICAの専門家と、青年海外協力隊の新案件を調査している調整員と会った。安定してきたネパールで地方での活動が再開されるようである。
 カトマンズに帰ってから、タメルを歩いていたら、韓国人5人組と会った。彼等はランタンからゴサインクンドへの道で何回か会ったグループである。今回は大韓航空を利用したため、何と帰りのカトマンズ空港と仁川空港でも一緒であった。不思議な縁である。

(6)バンコック空港封鎖の余波
 11月25日にバンコックの空港封鎖が始まり、約10日間TGのカトマンズ便は飛ばなかった。カトマンズに釘付けになった人も多く、かろうじて他の便に振り替えたりで大変だったようである。幸い今回は大韓航空をとっていたため問題なく、またその期間は私は山の中で何も知らなかった。下山した頃は落ち着きを取り戻しつつあったが、タイからの日本の新聞は帰国の前日の7日も届かなかった。
 

  

チュクンからBCに向う途中のアイランドピーク

アイランドピークのベースキャンプ、約4950m

 アイランドピークのハイキャンプの場所、約5400m

 アイゼン着脱場所からの眺め。下山時撮影

 主稜線に至る雪壁。傾斜60〜70度、高度差約200m。 フィックスロープが複数列設置されていた。

 頂上直下からのローツェ南壁

 頂上直下のガイドのパサン。このあとデジ・カメが低温のため作動不良となり、頂上からの写真が取れなかった。

 頂上直下、ローツェ側のパサン

頂上直下からのアマダブラム、オンビガイチャン   

 

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