バルトロ氷河

　　　　　バルトロ氷河トレッキング Ⅰ

　　　　　　- スカルドからコブルッツェまで -

A trekking at the Baltoro Glacier in Pakistan, Jul. to Aug. 2010

- From Skardu to Khobrutse -

アッパー・バルトロ氷河からのK2(8611m)とエンジェル・ピーク(6805m）；K2の左のピーク
K2 (8611m) and Angel Peak (6805m); left side of K2, taken from Upper Baltoro Glacier

    パキスタンの山は7月から9月がシーズンである。2010年の6月頃、急にパキスタンのどこか登りたいなと思った。パキスタンは全く行ったことがなく、そう簡単に登れるものでもない。　Nazir　Sabir Exp.にも相談したが、向こうもこちらの山の程度を全く知らないから無責任に答えるわけにもいかないだろう。結局、一般のトレッキング・ツアーに参加し、パキスタンの山の概要を知り、またNazir　Sabirさんや会社の人と懇意になり情報を得ようということになった。
    今より若い頃登山ツアーに参加したことがある。大差ないが、一般のトレッキング・ツアーの参加は初めてであった。心配していたことは、ゆっくり過ぎるペースで一日の行程も短いものではないか、ということであった。つまり長い日数がもったいない。これについては予想通り、いや予想以上にゆっくりしたペースでストレスがたまった。添乗員の配慮により、後半一人つけてもらって皆より先に自由な速いペースで歩かせてもらい、やや楽になった。
   最終の地コンコルディアでは2日間、自由行動の日があり、1日はK2BCの往復と、もう1日は別の項で紹介するゴンドコロ峠の途中までのヴィニ氷河の氷河散策を楽しんだ。バルトロ氷河は乾燥気候で一般に雨は少ないが、後述するようにこの年は雨が多かった。いや異常気象ともいうべき大雨の年であった。トレッキング中、７～８割の夜は雨が降った。幸い、コブルツェからコンコルディア、そして帰りのウルドカスまでの肝心な場所の約1週間の日中は良い天気が多く、山もよく見えた。また炎熱の中を歩くといわれたバルトロ氷河下部は雨や曇りで暑くはなかった。我々にとっては不幸中の幸いであったが、下流は大洪水で大変な事態になっていた（後述）。

【日本とヨーロッパのトレッキングの違い】
　　日本のツアー会社のトレッキングは安全重視というか、余り冒険的なツアーはしない。ごく代表的なツアーコースをゆっくり行く。早く言えば、多少慣れた人や登山をする人には物足りないかもしれない。これは参加者の多くがお金とヒマのある比較的高齢者であることに起因する。一方、ヨーロッパ人のツアーはネパールにしても、パキスタンにしても実にバラエティに富んでいる。日本人が余り行かないコース（実はそれが刺激に満ち、多少アドベンチャラスで大変面白い）にも沢山行っている。アメリカ人のトレッカーは多くはないが、ネパールでの私のように、大体一人ないし少人数で気ままにやっている。
　　パキスタンでもそれを痛切に感じた。日本の殆どの会社のバルトロ氷河トレッキングは単にバルトロ氷河を往復するだけである。長い日数のかかる氷河をまた戻るのは変化がなく退屈だ。行き会うヨーロッパ人に聞いてみると、コンコルディアからK２BCには大抵行くし、帰りはVigne氷河からゴンドコロ峠を越えてHusheに殆ど抜けるコースだ。中にはビアフォー氷河からバルトロ氷河をつなぐ猛者もいた。年齢層も高齢者の多い日本人と違いバラエティに富んでいる。
日本のツアー会社にはそのような面白いコースを提供して欲しい。お客が来ないと開発しようがないから、日本人にはもっと様々なコースに行って欲しいものだ。たまには一人でガイド、クック、ポーター等を連れている人もいるがごく少数派である。

　【パキスタンの大雨とインダス川の大洪水】
　２０１０年の夏はパキスタンにとっては大変な年となった。すなわち大雨によるインダス川の洪水で大変な被害が出たのである。日本に帰国して一ヶ月たってもインダス川の洪水は治まっていなかった。

　　これは我々のトレッキングの帰りに大きな影響を与えた。
　【道路と橋の決壊】
   まず、下山のときにアスコーレから下流のジープ道が、インダス川の支流のプラルドゥ川増水により流され、車が来れなくなった。これはトンガルまで1時間くらい余計に歩いただけだからたいしたことはない。翌日はトンガルから少し下った所の道が大きく決壊していた。落石の恐れもあり、人も通れず急な山を登り大きく迂回し、車を乗り換えた。スカルドゥまでの道も洪水や土石流で、道というよりもオフロード・ドライブであった。しかし、ここでランドクルーザーとドライバーの優秀性を実感した。
【スカルドゥ空港で3日待つ】
  スカルドゥに着いて安心するのは早かった。翌、１３日の飛行機は上空まで来て、天候不良によりイスラマバードに引き返してしまった。カラコルム・ハイウェイは大雨により、いたる所道路の決壊と、橋は流され通行不能となっており、スカルドゥは陸の孤島と化した。つまり飛行機が来ないと日本に帰れない。またスカルドゥのガソリン・油はなくなり、食料も不足しつつあった。
    14日は欠航。15日は早朝の1便は飛んだが、乗る予定の2便は欠航。天候不良や、機材繰りがつかないためである。来るか来ないか分からない飛行機を空港でひたすら待つのは疲れる。
    16日は早朝の1便は遅れた後、天候不良により欠航。2便も遅れに遅れ、諦めて帰った人がいる。パイロットが何としても降りてみましょうと飛行機は出発したらしい。雲の切れ間を探すため上空で4回旋回した後、機影が現れた。その時の待ち合わせロビーにいた人たちの嬉しそうな顔、顔。歓喜の声が上がった。
   【PIA成田便は週2便しかないため、4日遅れ】
   16日にとにかくイスラマバードに帰れたが、予定の成田行きは15日発であった。PIAの成田便は週2便しかないため、イスラマバードで観光や市内をブラブラしたりして、4日遅れの19日発、成田着は20日となった。


イスラマバードからスカルドゥに向かう飛行機からのナンガパルバット Nangaparbat 8125m on the way to Skardu by air	雲の切れ間から曲芸的な飛行でスカルドゥ空港に着陸。7月25日 Skardu Airport after the acrobatic flight in cloudy weather

スカルドゥで滞在したホテル、PTDC K-2モーテル。遠征隊の利用が多く、中にイタリアがK2登頂50周年記念に寄贈したK2博物館がある。食事やサービスがいまいちで、後半は途中でコンコルディア・モーテルに替えた。 PTDC（Pakistan Tourism Development Corporation) K-2Motel	1997年8月、スキルブルムのBCを襲った雪崩で遭難した、故広島三朗さんの書簡。K-2モーテル内には、過去の遠征隊のポスターや記念品などが多数展示されている。

7月27日、スカルドゥ出発。コサール・グンゲ6400m。Shigar River沿いにある。ガイドのシェル・カーンさんが今年登りたいと言っていた。 Koser Gunge 6400m, Mango Range, along side of the Shigar River	アスコーレのキャンプ場、3048m。車で行く途中、シガール川の左岸は崩れており、右岸を大きく迂回し、ラトックに登った大宮求さん隊に会った。 At the camp site of Askole

バコール・ダス5810m。アスコーレから目立つ山。北のDumordo川から見ると全く異なった山容、つまりタワーに見える。川はブラルド川。7月28日　Bakhor Das　5810m　and Braldu River	トレッキング初日、コラポンのキャンプ地。アスコーレ(6:35)コラポン（11:25) 3100m。KorophonはBiafo氷河の末端にある。外国人は普通次のジョラまで行くそうだ。夜中に大分雨が降った。 Korophon, the first campsite of the trekking, the end of Biafo glacier

7月29日。コラポン(6:30)ツォック(13:08)　曇り時々雨。上流の川の橋が流され、外国人の女性が腰まで水に浸かって渡渉したと言っていた。予定より手前の地ででキャンプ。立ち並ぶはポーターたち。　　　　　　　　　　　　　At the camp site of Tshok	7月29日。ツォック(6:25)スカムツォック(8:43)渡渉11:30パイユ(13:40)　小雨。大雨で橋が流され、簡易橋が一つつけられていた。普段は大した水流ではないが、引いたとはいえ濁流となり渡渉に跳躍力が必要。左はアマン、右で支えるはガイドのシェル・カーンさん。　 Crossing the river, before Paiju

パイユ3400m。緑豊かなオアシス。ここで二泊、よく雨が降った。1日は高所順応でパイユピークBC方面の3850mまで登る。北東（右側）にパイユ・ピークがあるが天気が悪く全く見られなかった。	パイユでのクックたち。真ん中はクックのイサ・カーン、左はアシスタントクックのシェル・カーン、右端はサルマン。パキスタンの山の料理はネパールよりうまいと思う。

ヤギ肉の仕分け。ヤギは左手前のポーターのシェル・カーンによって屠られた。シェル・カーンはポピュラーな名前でこの隊に3人いた。	Liligo Peak 6251m from Paiju

8月1日。バルトロ氷河の末端部、パイユから少し上。ここからインダス川の上流のブラルドゥ川（の上流のBiaho Lungma)が始まる。　　　　　　The end of the Baltoro Glacier, starting of the Braldu Rover; one of the tributaries of Indus River	パイユ(6:30)リリゴ（12：35）コブルツェ(15:30) 晴れ。幸運なことにバルトロ氷河を歩くこの日から良い天気名なった。グレートトランゴ6286m。　　　Great Trango 6286m

ネームレス・タワー　6239m, Nameless Tower	トレッキングで行動をよく共にしたイブラヒム・カーン。数多くの日本やヨーロッパの遠征隊に参加したHAPである。今回はポーターで飛び入り参加。 Mr. Ibrahim Khan, who is an HAP(High altitude Porter), usually.

左半分はトランゴグループ（左端はネームレス・タワー）、右はカテードラル、その右の鋭鋒はロブサン・スパイアー Trango Group in left half, Kathedral Peak at right side and Robsan Spire; pyramidal peak in the right

コブルツェとリリゴの中間くらいからのリリゴ・ピーク6251m　　　　Liligo Peak 6251m from the lowerside of Liligo	コブルツェからのパイユ・ピーク6600m。Nazir Sabirさんが初登頂した。　　Paiju Peak 6600m, first scaled by Mr.Nazir Sabir.

コブルツェからのリリゴ・ピーク6251m。リリゴ氷河の末端は数年前までは大きな氷河湖があったそうだ。今は干上がっている。 Liligo Peak 6251m and the end of Liligo Glaicier	コブルェのキャンプ場3800m。水が豊富にあり、水浴びした。以前使われていた下流のリリゴのキャンプ場は水がなく現在は使われていない。 The camp site of Khoburtse, 3800m high

朝日にあたるパイユ・ピーク 6600m (左側）とチョリチョ　6756m（右側）。コブルツェより　　　 The morning sunlight to Paiju Peak 6600m on the left and Choricho 6756m on the right, taken from Khobrutse

　　　バルトロ氷河Ⅱ